ご相談事例

ご相談事例

ここでは、私たちが家庭裁判所調査官として高齢者や親族間のもめ事に数多く関わってきた経験をもとに、みなさんが実際に直面しやすい事例に構成してご紹介します。

ご相談事例

ここでは、私たちが家庭裁判所調査官として高齢者や親族間のもめ事に数多く関わってきた経験をもとに、みなさんが実際に直面しやすい事例に構成してご紹介します。

一人暮らしで頼れる親族が少ないか、いても疎遠であり第三者を頼らざるを得ない高齢者

一人暮らしをしているAさんの介護の選択(70代前半女性)

夫を亡くしてマンションで一人暮らしの A さん。子どもはおらず遺族年金で生活し、近くに住んでいる6歳下の実弟も最近病気がちで相談もしにくくなり他に頼れる親族はいません。家事は何とか一人でこなしていますが、元々足に軽い障害があり、体力の衰えもあって徐々に外出が難しくなってきました。最近、要支援2の介護認定を受けたところです。

A さんは、亡き父母が晩年認知症になり、その介護で苦労したため、自分も最近物忘れがひどくなってきたことに不安を感じています。まだ専門医の診察は受けていませんが、いずれはグループホームや老人ホームなどの施設でお世話になるのだろうと考えています。

 住む地域や年齢、身体状況、要介護度、経済状況などにより、様々な介護の選択肢があり、介護認定を受けていれば、介護支援専門員(ケアマネージャー)に定期的に相談することができます。ご自身の性格や対人関係の好み、賑やかなのが好きか、一人の時間を大切にしたいのかなども大切な要素です。余力のあるうちにどのようなサービスを受けることができるか、終の棲家はどのような場所がよいのかをよく考え、施設見学などに参加しておくのもよいでしょう。晩年を安心して過ごすためには、資産や収入、健康状態、これまでの暮らしや自分の好みなどを整理して振り返ることが大切です。

自宅でのペットとの暮らしを大切にしたいBさん(80代前半女性)

夫に先立たれて20年が経ち、子がいないBさんは、愛犬とともに静かに自宅で一人暮らしを続けてきました。幸い経済的にはゆとりがあります。Bさんは80歳を過ぎ、いよいよその生活を続けるのが困難になってきましたが、何としてでも自宅を離れたくありません。可愛がっている愛犬と一緒に、静かに暮らし続けるのが望みでした。介護支援専門員(ケアマネージャー)からも何度となく施設入所を勧められましたが、決して首を縦に振ろうとせず、周囲の人を困らせるばかりでした。

配偶者が亡くなった方や身寄りがない方の場合、元気な間に自分がどのように生活していくのかを考えておく必要があります。できるだけ自宅で暮らし続けたいのであれば、認知症等の症状により自分の判断能力に支障が生じる、自力歩行ができなくなる、長期的な入院生活を強いられるといった場合に備えて、どのように暮らしていくのか、より具体的、現実的に、入念に準備をしておく必要があります。

いろいろと自分で調べながら準備ができるのであればよいですが、それが難しい場合には、弁護士、司法書士といった法律の専門家や、社会福祉士といった福祉の専門家等に助言や指導を仰ぎながら、準備しておく必要があります。自分だけでなく周囲の人も困らないよう成年後見人等依頼できる人の候補者を見つけておいたり、親族や知人、専門家等と財産管理等の契約を結んだり、いわゆる家族信託(民事信託)を利用したりする等して備えておきましょう。その中で、愛犬の扱いについても相談することが可能です。

一人暮らしで持病を持つCさんの医療(70代後半女性)


5年前に夫を亡くし一人暮らしをしているCさん。親族は少し離れた他府県に住む姪一人だけです。姪とは時々電話で連絡は取りあっていますが、心配をかけたくありません。Cさんは長く心臓の慢性疾患に苦しんでおり、根本的な治療法はなく対症療法によらざるを得ない状態です。

最近主治医から精密検査のため入院が必要だと言われました。入院に際し姪に保証人を頼まなければならず、検査結果によっては更に長期の入院が必要になる可能性もあって、とても不安です。Cさん自身、長く患った母を看取りましたが、最後は意識もないままたくさんのチューブに繋がれていた姿を見てとても辛い思いをしました。かえって母を苦しめたのではないかと後悔し、自分が治療の見込みのない状態になった時は、人生の最終段階であのような延命処置は受けたくないと考えています。

医療の問題は主治医など医療関係者とよく相談すべきことですが、治療につき自ら意思表示できない状態になった場合のこと、人生の最終段階における医療のことなどについて自分の考えを整理して記録しておくと、親族の負担を減らせる可能性があります。事前にリビング・ウィル(書面による生前の意思表示)を作成し、主治医にもその旨伝えて、万が一の時にあなたに代わって判断を求められる親族にも伝えておく方がよいでしょう。

重大な医療行為を受けるDさん(70代後半男性)

Dさんは脳卒中により転倒して、病院に運ばれました。昏睡状態に陥りましたが、何とか一命をとりとめました。しかし、自らで食事の摂取ができなくなったことから、病院側は唯一の親族であるDさんの弟に対し、胃ろうの造設を提案しました。

Dさんの弟は、Dさんがリビング・ウィル(書面による生前の意思表示)としての「尊厳死宣言書」を作成しており、自らに託されていたことから、それを病院側に提示して事情を説明しました。病院側も理解を示し、Dさんの回復の可能性も極めて低いことから、その意思を尊重することになりました。

「尊厳死宣言書」は、法的効力が必ずしも明確ではありません。しかしご本人が延命処置を希望しない意思表示を書面で明確に示したものであり、親族もこれに同意している場合には病院側の判断材料の一つになると思われます。元気な間に尊厳死や安楽死について考え、医療に関する自分の望みを整理し、親族にも説明して理解を得ておくのも大切なことの一つです。

身寄りがないEさんの葬儀と墓(60代後半女性)

Eさんは、同じ会社に長年勤務し、定年退職しました。一人暮らしで子どもはいません。両親はすでに他界し、ひとりっ子だったEさんには身寄りもありません。最近、同年代の友人が亡くなったことから、もしもの時に誰が自分の葬儀をしてくれるのか、遺骨はどうなるのかと不安になりました。自分には墓などいらないと思う反面、友人や近所の人に迷惑をかけるのは嫌だと考えるようになりました。

近年、市役所等が葬儀や遺骨の処分を行う事例が急増しています。死後の後始末くらいは自分で決めておきたいと考える人は多いでしょう。高齢者が死亡時に支払い義務のある医療費、介護費用などを清算し、葬儀や納骨などの手配(「死後事務」と言います。)を引き受ける民間事業者に事前に依頼することも可能です。サービス内容を確認して信頼できる事業者と契約することが大切ですが、もしもの時に誰(友人、知人など)に知らせてほしいのか、どのような葬儀を希望し遺骨はどうしたいのかなどを決めておく必要があります。直葬でよいのか、宗派は、墓地は共同墓地か、樹木葬か、散骨かなど様々な選択肢から検討しておきたいものです。

施設に入所したFさんの本当の願いは?(80代後半女性)

早くに夫を亡くし、子がいない施設入所中のFさんは、財産管理が十分にできなくなり、誰かの援助が必要になったために、施設側から補助人を付けてもらうよう勧められました。Fさんは、家庭裁判所に「補助開始の審判」を求める申立てをし、法律の専門家である補助人を選んでもらいました。

ところが、補助人はFさんのもっと自由に好きなことにお金を使いたいという願いを聞き入れようしません。困ってしまったFさんは、亡夫の親しい知人に相談したところ、補助人に対して同意権や代理権を与えなければ良いと教わり、家庭裁判所に対して「代理権付与の取消」を申し立てました。家庭裁判所で申立書の審査をすると、申立書の文字がFさんのものと考えられず、他人の影響を受けている恐れがあったことから、家庭裁判所調査官がFさんと面談をすることになりました。面会を重ねたものの、Fさんは高齢であることや、心身の状況の変化により、日によって意見がコロコロと変わったために真意がどこにあるのかを測り兼ねました。

ご本人が単身になり、身寄りが疎遠になった時に、自分がどのように暮らしていきたいのか、財産管理や祭祀のこと等を準備し、定期的に「見える化」しておくと、いざとなった時はその周囲の支援者がご本人にとって何が良いかを考える手立てとなります。「見える化」をなるべく早くから準備し、定期的に見直しておくと、ご本人の考えの変遷がわかり、変わらない箇所は確固たる考えであり、変わっている箇所は迷いのあるところとして理解されやすくなります。

介護を受ける方法について困ってしまった一人暮らしのGさん(80代前半女性)

Gさんは、2年前に同居していた夫に先立たれて、一人暮らしになりました。すでに独立した子どもたち4人に頼らず、しばらくの間は何とか頑張っていましたが、認知症様の症状が出てきて、自宅でボヤを出す騒ぎを起こしてしまいました。

近所からも苦情が出るようになったため、介護支援専門員(ケアマネージャー)の助言もあって、子どもたち4人はGさんの施設入所を検討しました。Gさん自身は施設に入りたくないのですが今まで通り一人暮らしでやっていける自信もありません。子どもたちには皆、それぞれに家庭事情があり、誰か一人の子に同居させてほしいと頼むこともできません。子どもたちの間でも、施設入所に賛成する者と反対する者との間で意見が対立しました。

介護を受けるに当たっての費用負担をどうするか、施設に入所するのかどうか、また、施設を利用しない場合にどのような介護方法を選ぶのかといった問題が生じます。経済的な問題がクリアできなかったり、子の人数が多かったりすると、意見がまとまらないことが生じがちです。夫婦が元気な間に今後の介護について話し合って考えをまとめておいたり、夫婦のいずれか一方が亡くなった後、落ち着いた頃を見計らって親族内で話し合いをしておいたりすると、解決策が見つけやすくなります。

賃貸住宅の管理と相続に問題が起きそうなHさん(70代後半男性)

Hさんは退職時に自宅の隣に立てた小規模の賃貸アパートを所有し、年金と賃料収入で5歳下の妻と暮らしています。これまで自分で家賃の集金や管理も行ってきましたが、いつまでも修繕や管理などを続けるのは難しいと考えています。離れて住む長男と二男がいますが、それぞれ家庭を持ち仕事も忙しくアパートの管理を頼むこともできません。また、昔、Hさんが長男の借金を肩代わりしてやったことに対して二男が不満を持っているようで、もしもの時には遺産を巡って争いが生じるのではとの不安もあります。

賃貸住宅の管理が難しいのであれば費用を支払って不動産会社に管理を委ねる方法もあります。ただし修繕費用も加味した今後の収支の見通しを立てておきたいものです。相続に際して分けるのが難しい財産についてスムーズに分割手続きがなされるためには遺言の作成が必要ですし、それに加えて、なぜこのような分配をしたのかという意図を子らに説明し、生前贈与の金額とその取扱いなども整理して記録しておくと紛争を防ぐ効果があります。財産の額によっては前もって弁護士、税理士等の専門家から適切な助言を得て、遺族が支払う相続税への配慮もしておくと安心です。

突然の事故で判断能力を失ったIさんの会社経営問題(70代前半)

Iさんは会社を営んでおり、妻の他に長男、次男、長女の三人の子がいました。Iさんの会社は順調に成長しました。子らはその会社の取締役を務めるなど、経営に参画していましたが、長男が会社の財産を使い込む等信頼を置けない行動をしたことから、Iさんは長男を後継者にするかどうかに迷いがありました。その迷いのため、結論を出せなかった中で、Iさんは交通事故に遇い、植物状態に陥ってしまいました。

会社を存続させるために成年後見人を選任する必要が生じ、第三者の専門家である弁護士が就任しましたが、その選任後、会社の経営方針をめぐって成年後見人に対して長男を含めた親族が反発を続け、問題が収束していくのに相当な時間と労力がかかりました。

Iさんがどのような思いで会社経営を始め、維持、発展に努めてきたか、どのような経緯があって会社の今後について迷いが生じてきたのか、そのような事実や心情を記録しておくと、第三者である成年後見人はIさんの心情や意思を汲みながら親族に対応することができたと思われます。親族も、Iさんの会社に対する思いを受け止めることができ成年後見人と協力できたかもしれません。

一人暮らしをしているAさんの介護の選択(70代前半女性)

夫を亡くしてマンションで一人暮らしの A さん。子どもはおらず遺族年金で生活し、近くに住んでいる6歳下の実弟も最近病気がちで相談もしにくくなり他に頼れる親族はいません。家事は何とか一人でこなしていますが、元々足に軽い障害があり、体力の衰えもあって徐々に外出が難しくなってきました。最近、要支援2の介護認定を受けたところです。

A さんは、亡き父母が晩年認知症になり、その介護で苦労したため、自分も最近物忘れがひどくなってきたことに不安を感じています。まだ専門医の診察は受けていませんが、いずれはグループホームや老人ホームなどの施設でお世話になるのだろうと考えています。

 住む地域や年齢、身体状況、要介護度、経済状況などにより、様々な介護の選択肢があり、介護認定を受けていれば、介護支援専門員(ケアマネージャー)に定期的に相談することができます。ご自身の性格や対人関係の好み、賑やかなのが好きか、一人の時間を大切にしたいのかなども大切な要素です。余力のあるうちにどのようなサービスを受けることができるか、終の棲家はどのような場所がよいのかをよく考え、施設見学などに参加しておくのもよいでしょう。晩年を安心して過ごすためには、資産や収入、健康状態、これまでの暮らしや自分の好みなどを整理して振り返ることが大切です。

自宅でのペットとの暮らしを大切にしたいBさん(80代前半女性)

夫に先立たれて20年が経ち、子がいないBさんは、愛犬とともに静かに自宅で一人暮らしを続けてきました。幸い経済的にはゆとりがあります。Bさんは80歳を過ぎ、いよいよその生活を続けるのが困難になってきましたが、何としてでも自宅を離れたくありません。可愛がっている愛犬と一緒に、静かに暮らし続けるのが望みでした。介護支援専門員(ケアマネージャー)からも何度となく施設入所を勧められましたが、決して首を縦に振ろうとせず、周囲の人を困らせるばかりでした。

配偶者が亡くなった方や身寄りがない方の場合、元気な間に自分がどのように生活していくのかを考えておく必要があります。できるだけ自宅で暮らし続けたいのであれば、認知症等の症状により自分の判断能力に支障が生じる、自力歩行ができなくなる、長期的な入院生活を強いられるといった場合に備えて、どのように暮らしていくのか、より具体的、現実的に、入念に準備をしておく必要があります。

いろいろと自分で調べながら準備ができるのであればよいですが、それが難しい場合には、弁護士、司法書士といった法律の専門家や、社会福祉士といった福祉の専門家等に助言や指導を仰ぎながら、準備しておく必要があります。自分だけでなく周囲の人も困らないよう成年後見人等依頼できる人の候補者を見つけておいたり、親族や知人、専門家等と財産管理等の契約を結んだり、いわゆる家族信託(民事信託)を利用したりする等して備えておきましょう。その中で、愛犬の扱いについても相談することが可能です。

一人暮らしで持病を持つCさんの医療(70代後半女性)

5年前に夫を亡くし一人暮らしをしているCさん。親族は少し離れた他府県に住む姪一人だけです。姪とは時々電話で連絡は取りあっていますが、心配をかけたくありません。Cさんは長く心臓の慢性疾患に苦しんでおり、根本的な治療法はなく対症療法によらざるを得ない状態です。

最近主治医から精密検査のため入院が必要だと言われました。入院に際し姪に保証人を頼まなければならず、検査結果によっては更に長期の入院が必要になる可能性もあって、とても不安です。Cさん自身、長く患った母を看取りましたが、最後は意識もないままたくさんのチューブに繋がれていた姿を見てとても辛い思いをしました。かえって母を苦しめたのではないかと後悔し、自分が治療の見込みのない状態になった時は、人生の最終段階であのような延命処置は受けたくないと考えています。

医療の問題は主治医など医療関係者とよく相談すべきことですが、治療につき自ら意思表示できない状態になった場合のこと、人生の最終段階における医療のことなどについて自分の考えを整理して記録しておくと、親族の負担を減らせる可能性があります。事前にリビング・ウィル(書面による生前の意思表示)を作成し、主治医にもその旨伝えて、万が一の時にあなたに代わって判断を求められる親族にも伝えておく方がよいでしょう。

重大な医療行為を受けるDさん(70代後半男性)

Dさんは脳卒中により転倒して、病院に運ばれました。昏睡状態に陥りましたが、何とか一命をとりとめました。しかし、自らで食事の摂取ができなくなったことから、病院側は唯一の親族であるDさんの弟に対し、胃ろうの造設を提案しました。

Dさんの弟は、Dさんがリビング・ウィル(書面による生前の意思表示)としての「尊厳死宣言書」を作成しており、自らに託されていたことから、それを病院側に提示して事情を説明しました。病院側も理解を示し、Dさんの回復の可能性も極めて低いことから、その意思を尊重することになりました。

「尊厳死宣言書」は、法的効力が必ずしも明確ではありません。しかしご本人が延命処置を希望しない意思表示を書面で明確に示したものであり、親族もこれに同意している場合には病院側の判断材料の一つになると思われます。元気な間に尊厳死や安楽死について考え、医療に関する自分の望みを整理し、親族にも説明して理解を得ておくのも大切なことの一つです。

身寄りがないEさんの葬儀と墓(60代後半女性)

Eさんは、同じ会社に長年勤務し、定年退職しました。一人暮らしで子どもはいません。両親はすでに他界し、ひとりっ子だったEさんには身寄りもありません。最近、同年代の友人が亡くなったことから、もしもの時に誰が自分の葬儀をしてくれるのか、遺骨はどうなるのかと不安になりました。自分には墓などいらないと思う反面、友人や近所の人に迷惑をかけるのは嫌だと考えるようになりました。

近年、市役所等が葬儀や遺骨の処分を行う事例が急増しています。死後の後始末くらいは自分で決めておきたいと考える人は多いでしょう。高齢者が死亡時に支払い義務のある医療費、介護費用などを清算し、葬儀や納骨などの手配(「死後事務」と言います。)を引き受ける民間事業者に事前に依頼することも可能です。サービス内容を確認して信頼できる事業者と契約することが大切ですが、もしもの時に誰(友人、知人など)に知らせてほしいのか、どのような葬儀を希望し遺骨はどうしたいのかなどを決めておく必要があります。直葬でよいのか、宗派は、墓地は共同墓地か、樹木葬か、散骨かなど様々な選択肢から検討しておきたいものです。

施設に入所したFさんの本当の願いは?(80代後半女性)

早くに夫を亡くし、子がいない施設入所中のFさんは、財産管理が十分にできなくなり、誰かの援助が必要になったために、施設側から補助人を付けてもらうよう勧められました。Fさんは、家庭裁判所に「補助開始の審判」を求める申立てをし、法律の専門家である補助人を選んでもらいました。

ところが、補助人はFさんのもっと自由に好きなことにお金を使いたいという願いを聞き入れようしません。困ってしまったFさんは、亡夫の親しい知人に相談したところ、補助人に対して同意権や代理権を与えなければ良いと教わり、家庭裁判所に対して「代理権付与の取消」を申し立てました。家庭裁判所で申立書の審査をすると、申立書の文字がFさんのものと考えられず、他人の影響を受けている恐れがあったことから、家庭裁判所調査官がFさんと面談をすることになりました。面会を重ねたものの、Fさんは高齢であることや、心身の状況の変化により、日によって意見がコロコロと変わったために真意がどこにあるのかを測り兼ねました。

ご本人が単身になり、身寄りが疎遠になった時に、自分がどのように暮らしていきたいのか、財産管理や祭祀のこと等を準備し、定期的に「見える化」しておくと、いざとなった時はその周囲の支援者がご本人にとって何が良いかを考える手立てとなります。「見える化」をなるべく早くから準備し、定期的に見直しておくと、ご本人の考えの変遷がわかり、変わらない箇所は確固たる考えであり、変わっている箇所は迷いのあるところとして理解されやすくなります。

介護を受ける方法について困ってしまった一人暮らしのGさん(80代前半女性)

Gさんは、2年前に同居していた夫に先立たれて、一人暮らしになりました。すでに独立した子どもたち4人に頼らず、しばらくの間は何とか頑張っていましたが、認知症様の症状が出てきて、自宅でボヤを出す騒ぎを起こしてしまいました。
近所からも苦情が出るようになったため、介護支援専門員(ケアマネージャー)の助言もあって、子どもたち4人はGさんの施設入所を検討しました。Gさん自身は施設に入りたくないのですが今まで通り一人暮らしでやっていける自信もありません。子どもたちには皆、それぞれに家庭事情があり、誰か一人の子に同居させてほしいと頼むこともできません。子どもたちの間でも、施設入所に賛成する者と反対する者との間で意見が対立しました。

介護を受けるに当たっての費用負担をどうするか、施設に入所するのかどうか、また、施設を利用しない場合にどのような介護方法を選ぶのかといった問題が生じます。経済的な問題がクリアできなかったり、子の人数が多かったりすると、意見がまとまらないことが生じがちです。夫婦が元気な間に今後の介護について話し合って考えをまとめておいたり、夫婦のいずれか一方が亡くなった後、落ち着いた頃を見計らって親族内で話し合いをしておいたりすると、解決策が見つけやすくなります。

賃貸住宅の管理と相続に問題が起きそうなHさん(70代後半男性)

Hさんは退職時に自宅の隣に立てた小規模の賃貸アパートを所有し、年金と賃料収入で5歳下の妻と暮らしています。これまで自分で家賃の集金や管理も行ってきましたが、いつまでも修繕や管理などを続けるのは難しいと考えています。離れて住む長男と二男がいますが、それぞれ家庭を持ち仕事も忙しくアパートの管理を頼むこともできません。また、昔、Hさんが長男の借金を肩代わりしてやったことに対して二男が不満を持っているようで、もしもの時には遺産を巡って争いが生じるのではとの不安もあります。

賃貸住宅の管理が難しいのであれば費用を支払って不動産会社に管理を委ねる方法もあります。ただし修繕費用も加味した今後の収支の見通しを立てておきたいものです。相続に際して分けるのが難しい財産についてスムーズに分割手続きがなされるためには遺言の作成が必要ですし、それに加えて、なぜこのような分配をしたのかという意図を子らに説明し、生前贈与の金額とその取扱いなども整理して記録しておくと紛争を防ぐ効果があります。財産の額によっては前もって弁護士、税理士等の専門家から適切な助言を得て、遺族が支払う相続税への配慮もしておくと安心です。

突然の事故で判断能力を失ったIさんの会社経営問題(70代前半)

Iさんは会社を営んでおり、妻の他に長男、次男、長女の三人の子がいました。Iさんの会社は順調に成長しました。子らはその会社の取締役を務めるなど、経営に参画していましたが、長男が会社の財産を使い込む等信頼を置けない行動をしたことから、Iさんは長男を後継者にするかどうかに迷いがありました。その迷いのため、結論を出せなかった中で、Iさんは交通事故に遇い、植物状態に陥ってしまいました。

会社を存続させるために成年後見人を選任する必要が生じ、第三者の専門家である弁護士が就任しましたが、その選任後、会社の経営方針をめぐって成年後見人に対して長男を含めた親族が反発を続け、問題が収束していくのに相当な時間と労力がかかりました。

Iさんがどのような思いで会社経営を始め、維持、発展に努めてきたか、どのような経緯があって会社の今後について迷いが生じてきたのか、そのような事実や心情を記録しておくと、第三者である成年後見人はIさんの心情や意思を汲みながら親族に対応することができたと思われます。親族も、Iさんの会社に対する思いを受け止めることができ成年後見人と協力できたかもしれません。

親族や周囲の人たちが困らないように、配慮をしておく必要がある高齢者
(次世代への引継ぎや紛争を避ける必要がある問題)

親族や周囲の人たちが困らないように、
配慮をしておく必要がある高齢者
(次世代への引継ぎや紛争を避ける必要がある問題)

親亡き後の子の将来を心配するJさん(60代後半女性)

Jさんは8歳年上の夫と二人暮らしで、軽度の知的障害がありグループホームで暮らす40代後半の長女と、遠方で家庭を持つ次女がいます。長女は家庭裁判所で「保佐開始の審判」を受けて夫が保佐人となり、障害年金を受給しながら作業所で働いています。夫とJさんには共有名義の自宅とそれぞれいくらかの預貯金、有価証券などがあります。

最近、夫が悪性腫瘍のために入退院を繰り返すようになり、Jさんも看病に疲れて体調を崩してしまいました。夫は長女のために自分が保佐人としてまだまだ頑張らなければと言っていますが、Jさんとしてはこれ以上親族で長女を担っていくのは難しく、専門職の保佐人に引き継いだ方がよいのでないかと考えています。今のところ、仕事と子育てで忙しい次女には負担をかけたくありません。

障害を抱えているお子さんがいる親御さんは、自分たちが亡き後のことを考えて不安が尽きません。もちろんお子さんがどの程度自分の意思を表明できるか、自立して生活を営める能力の有無などにより取り得る方法は様々です。ご両親で長女のこれからの生活についてある程度見通しを立て、記録に残して専門職保佐人に引き継ぐ準備が必要です。施設の担当者にも相談して齟齬が生じないように配慮したいものです。また長女の生活に配慮した財産の配分を実現できるように父母それぞれが遺言を作成し、次女にもその内容について理解を得ておくことが重要です。

一人暮らしの父と自宅の整理、処分を心配するKさん(40代後半女性)

Kさんの父親は70代後半で隣の県にある自宅で一人暮らしをしています。3年前に母親が亡くなりましたが、年金と一定の金融資産もあり老後の生活に大きな不安はありません。子どもは海外に暮らす兄とKさんの二人ですが、それぞれ独立して生活基盤を築いており、交流は年に数回ある程度です。

父親は最近少し足が不自由になってきたため、室内に段差の多い自宅での暮らしが辛くなってきたようです。亡き母親の遺品整理や不用品の処分をしようと試みましたが、体力的に難しくなって先送りにしています。自宅は老朽化が進んで補修も必要になってきており、処分してマンションなどに移ることも考えていると言いますが、自宅に愛着もあって決心できないようです。

配偶者を亡くした高齢者の一人暮らしは、お子さんにとっても心配の種です。体力の衰えにより家財道具の整理もできず、使い勝手の悪い古い家で暮らし続けるのがよいのか、段差をなくすなどの配慮をした改修がよいのか、思い切って処分して転居を考えるかなど迷うのは当然です。ご本人の気持ちを大切にしなければならず、あまりお子さんから話題にするのも難しいものです。ただ、いよいよ自分で判断ができない状態になってから家財の整理や自宅の処分を行うことは大変な困難が伴います。まだご本人に余力がある間に専門家の助言も得るなどして準備することが重要です。心配されているお子さんたちが、ご本人に寄り添って一緒に考えていくことが求められます。

老親のデジタルデータ管理がわからず、対処に困ったLさん(40代前半男性)

Lさんの父親(70代前半男性)はパソコンやスマホ等の情報ツールを使いこなし、オンラインショップでの商品購入やネットバンク、ネット証券などの取引も行っています。その他にも様々なサイトに登録していつも利用しています。同居する母親はそのようなことには全く関心がないようです。

ところが、その父親が昨年初めて大病を患い、2か月間の入院生活を強いられました。その際、Lさんは母親から、メールの確認やネットワークサービスの処理について相談を受けましたが、父親のアカウントやパスワードの管理がどのようになされているのかわからず、結局、退院後に父親自身が苦労して対応せざるを得ませんでした。

急な病気などで意識を失うなどして情報ツールを利用できない状態になった場合や、万が一そのまま死亡してしまった場合、親族が重要なデジタルデータにアクセスできなくなる可能性があります。このようなツールを使っておられる方は、もしもの時に親族にわかるように情報を整理して記録し、それを親族らが確認できるようにしておく必要があります。また親しい友人、知人などの連絡先などもわかるように整理しておくと、もしもの時に親族の助けになるかもしれません。親族もこのような点を意識してご本人と情報を共有しておきたいものです。

判断能力が衰えた父親を巡る相続問題に巻き込まれたMさん(60代前半女性)

数年前に母親に先立たれた父親(90代前半男性)は、Mさんをはじめとする近所に住む娘四人に見守ってもらいながら、自宅で一人暮らしをしていました。父親が徐々に判断能力が衰えていく中で、所有している自宅を含めた多数の不動産の一部や預貯金の取得を求めていた妹たちは、公証役場に父親を連れて行き、父親の遺言書を作成してもらいました。父親が亡くなった後、妹たちは公正証書の遺言書に基づく相続分の取得を主張してきたことから、Mさんはびっくりしてしまい、遺産相続問題で大きくもめて、きょうだいがバラバラになってしまいました。

父親が元気な間に、子らが不平等感を抱かないよう相続財産に関してある程度の道筋をつけておくと、大きな紛争を招かないで済んだかもしれません。子らが「争族」にならないよう、生前に相続財産をどうするのか、節目々々に親族内で話し合いをしながらその方向性を伝えたり、子らの影響を受けない状況で、自らの判断により遺言書を作成しておいたりする方が望ましかったと考えられます。
遺言書は相続を円滑に進める大切な手段ですが、ご本人の判断能力が衰えた段階で作成された場合、相続開始後に遺言の有効性を巡って深刻な争いが生ずることもあります。そのようなことにならないよう早めの対応が必要です。

前妻の子との間で相続争いに巻き込まれたNさん(50代前半女性)

Nさんの夫(60代前半男性)は、Nさんと不倫の末、前妻と離婚しました。その後、Nさんは夫と婚姻し、二人で新居を構えて生活してきました。

ところが、Nさんの夫は脳梗塞によって急死してしまいました。Nさんの夫と前妻との間には二人の子がおり、Nさんの夫が亡くなって相続問題が生じましたが、過去の因縁から遺産分割協議がまとまらず、Nさんは困り果ててしまいました。

離婚等の経緯から将来的に相続でのもめ事が想定される場合、Nさんの夫は遺言書を作成しておく必要がありましたが、それをしないまま亡くなってしまいました。Nさんの行く末を考えると、配偶者居住権等法律に基づいた対処ができることから、法律の専門家等に相談することによって事前に法的な課題を解決しておくべきであったと言えるでしょう。再婚夫婦が増加しており、このような問題を抱えている方はたくさんおられることと思われます。もしもの時に備えて早めに相続対策を検討しておく必要があります。

兄の介護をしてきたOさんの貢献は?(60代後半女性)

妻に先立たれ、一人暮らしをしていた兄(70代前半男性)は、脳梗塞を患い、半身不随になってしまいました。長女は夫方の両親の世話をしており、長男家族は仕事の関係で遠方に住んでいたことから、近所に住むOさんが介護を引き受けながら、生活を維持していました。判断能力はある程度残っていたので、兄はOさんの献身的な介護に感謝して暮らしていましたが、数年後他界しました。

遺産は、長女と長男で相続することになりました。Oさんは別にそれを気にしていなかったのですが、介護の様子を快く思っていなかったOさんの夫が見かねて、Oさんに対して今までの生活上の不満をぶつけました。Oさんは、夫の感情を収めるためにやむを得ず、家庭裁判所に「特別寄与料」を求める調停を申し立てました。

特別寄与料とは、相続人ではない親族が被相続人の療養看護等に努めた場合に、被相続人が亡くなった後、相続人に対して遺産の一部を請求できる権利のことです。兄が生前、判断能力がある程度残っていたことから、法律の専門家に相談してOさんに対して一定の財産を相続させる旨の遺言書を作成しておけば、このような事態を避けることができたのかもしれません。兄がOさんに対する感謝の気持ちを表さなかったために、親族内でもめる結果を招いてしまったのです。

放蕩息子だった兄に翻弄されるPさん(50代後半女性)

Pさんには、中学時代から非行に走った兄がいました。入学した高校も中退してしまい、職を転々とするものの長くは続かず、遊ぶお金に困っては母に金銭を無心していました。母は蓄えが乏しくなってきたことから、いよいよ兄に対し、家を出て行くように言い渡しました。母の姿を見てきたPさんは、じっと我慢して、弱っていく母を献身的に介護しました。

母が亡くなり、相続が開始しました。法律の専門家である司法書士が遺産相続の手続を進める中で所在不明だった兄が見つかり、母が死亡した事実を伝えると、兄は自宅について相続分を主張しました。Pさんは兄が母に数多くの苦労を掛けてきたことなどを主張しましたが、兄はそれを聞き入れようとせず、二人の争いはひどくなるばかりでした。

このような場合、兄が相続人として欠格事由があるのでは、と考える方もおられると思いますが、法的には欠格事由に当たりません。母が生前であれば、家庭裁判所において「推定相続人廃除」という手続をすることも考えられますが、Pさんの兄を推定相続人として廃除できるかどうかは微妙です。Pさんを守るためには、母が長女に遺産を相続させる旨の遺言書か、今までの経緯や事実をできるだけ具体的に記録に残しておく必要があったように思われます。

悪質業者に翻弄されたQさん(80代前半男性)

妻に先立たれたQさんは、自宅で一人暮らしをしていました。身寄りがなかったものの、自宅家屋やそれなりの資産があったことから、悠々自適の毎日を送っていました。ある日、Qさんの自宅を訪ねてきた修理業者の話を聞き、自宅を見てもらったところ、屋根瓦の損傷が判明したことから、その工事を施しました。それを契機として、修理業者が次々と訪ねて来てはQさんの不安を煽り、自宅の修理を促されるようになりました。

言われるがままに契約を重ねていったQさんは、資産がどんどん目減りしていくものの、判断能力の衰えもあって、対処できなくなっていました。自宅を定期的に訪問していた民生委員が異変に気づき、注意を促したものの、不安を募らせているQさんは修理業者を信頼して耳を貸そうとしません。地域包括支援センターが市とも相談しながら介入しましたが、解決に至らず、市長が家庭裁判所に対して「保佐開始の審判」を申し立てることにより、法律の専門家である保佐人が選ばれて事態の収拾が図られました。

高齢者の判断能力の低下や不安につけ込んで財産を狙う悪質な業者が跡を絶ちません。元気なうちに判断能力が低下することを想定して自分の将来について考え、信頼できる人との間で財産管理契約や任意後見契約等を結ぶことを検討しておく必要があったように思われます。Qさんの場合、行政が動く形で何とか大事に至らずに済みましたが、行政側の負担は相当大変なものになりますし、高齢者にとって最後の砦である財産が剥ぎ取られてしまってからでは後の祭りになります。

自営業により、多額の借金を抱えていたRさん(70代前半)

町工場を営んでいたRさんは、親族が営んでいる同業者3人に数百万円ずつの借金をしていました。しかし、Rさんは恩義を強く感じており、何とか返済したいと考えていました。

Rさんは日頃世話になっていた税理士に相談した結果、その返済の合計金額と300万円を上乗せすることが可能な金額の生命保険に加入し、長男を死亡受取人に指定しました。長男は、Rさんから、生前、自らが親族から受けた様々な恩義について聞かされていたものの、改めて残された日記に記載されている具体的な内容を見て感銘を受け、生命保険金を受領した後、同業者3人にそれらを返済しました。

Rさんは、生前、借金の返済方法について具体的に検討し、何とか帳尻を合わせようと努め、さらに自らの遺志を相続人である身内にきちんと託したことにより、思いを遂げました。やはり、元気な間に専門家に相談し、心残りがないように努めておくことでご本人の意思を生かすことができた事例と考えられます。

親亡き後の子の将来を心配するJさん(60代後半女性)

Jさんは8歳年上の夫と二人暮らしで、軽度の知的障害がありグループホームで暮らす40代後半の長女と、遠方で家庭を持つ次女がいます。長女は家庭裁判所で「保佐開始の審判」を受けて夫が保佐人となり、障害年金を受給しながら作業所で働いています。夫とJさんには共有名義の自宅とそれぞれいくらかの預貯金、有価証券などがあります。

最近、夫が悪性腫瘍のために入退院を繰り返すようになり、Jさんも看病に疲れて体調を崩してしまいました。夫は長女のために自分が保佐人としてまだまだ頑張らなければと言っていますが、Jさんとしてはこれ以上親族で長女を担っていくのは難しく、専門職の保佐人に引き継いだ方がよいのでないかと考えています。今のところ、仕事と子育てで忙しい次女には負担をかけたくありません。

障害を抱えているお子さんがいる親御さんは、自分たちが亡き後のことを考えて不安が尽きません。もちろんお子さんがどの程度自分の意思を表明できるか、自立して生活を営める能力の有無などにより取り得る方法は様々です。ご両親で長女のこれからの生活についてある程度見通しを立て、記録に残して専門職保佐人に引き継ぐ準備が必要です。施設の担当者にも相談して齟齬が生じないように配慮したいものです。また長女の生活に配慮した財産の配分を実現できるように父母それぞれが遺言を作成し、次女にもその内容について理解を得ておくことが重要です。

一人暮らしの父と自宅の整理、処分を心配するKさん(40代後半女性)

Kさんの父親は70代後半で隣の県にある自宅で一人暮らしをしています。3年前に母親が亡くなりましたが、年金と一定の金融資産もあり老後の生活に大きな不安はありません。子どもは海外に暮らす兄とKさんの二人ですが、それぞれ独立して生活基盤を築いており、交流は年に数回ある程度です。

父親は最近少し足が不自由になってきたため、室内に段差の多い自宅での暮らしが辛くなってきたようです。亡き母親の遺品整理や不用品の処分をしようと試みましたが、体力的に難しくなって先送りにしています。自宅は老朽化が進んで補修も必要になってきており、処分してマンションなどに移ることも考えていると言いますが、自宅に愛着もあって決心できないようです。

配偶者を亡くした高齢者の一人暮らしは、お子さんにとっても心配の種です。体力の衰えにより家財道具の整理もできず、使い勝手の悪い古い家で暮らし続けるのがよいのか、段差をなくすなどの配慮をした改修がよいのか、思い切って処分して転居を考えるかなど迷うのは当然です。ご本人の気持ちを大切にしなければならず、あまりお子さんから話題にするのも難しいものです。ただ、いよいよ自分で判断ができない状態になってから家財の整理や自宅の処分を行うことは大変な困難が伴います。まだご本人に余力がある間に専門家の助言も得るなどして準備することが重要です。心配されているお子さんたちが、ご本人に寄り添って一緒に考えていくことが求められます。

老親のデジタルデータ管理がわからず、対処に困ったLさん(40代前半男性)

Lさんの父親(70代前半男性)はパソコンやスマホ等の情報ツールを使いこなし、オンラインショップでの商品購入やネットバンク、ネット証券などの取引も行っています。その他にも様々なサイトに登録していつも利用しています。同居する母親はそのようなことには全く関心がないようです。

ところが、その父親が昨年初めて大病を患い、2か月間の入院生活を強いられました。その際、Lさんは母親から、メールの確認やネットワークサービスの処理について相談を受けましたが、父親のアカウントやパスワードの管理がどのようになされているのかわからず、結局、退院後に父親自身が苦労して対応せざるを得ませんでした。

急な病気などで意識を失うなどして情報ツールを利用できない状態になった場合や、万が一そのまま死亡してしまった場合、親族が重要なデジタルデータにアクセスできなくなる可能性があります。このようなツールを使っておられる方は、もしもの時に親族にわかるように情報を整理して記録し、それを親族らが確認できるようにしておく必要があります。また親しい友人、知人などの連絡先などもわかるように整理しておくと、もしもの時に親族の助けになるかもしれません。親族もこのような点を意識してご本人と情報を共有しておきたいものです。

判断能力が衰えた父親を巡る相続問題に巻き込まれたMさん(60代前半女性)

数年前に母親に先立たれた父親(90代前半男性)は、Mさんをはじめとする近所に住む娘四人に見守ってもらいながら、自宅で一人暮らしをしていました。父親が徐々に判断能力が衰えていく中で、所有している自宅を含めた多数の不動産の一部や預貯金の取得を求めていた妹たちは、公証役場に父親を連れて行き、父親の遺言書を作成してもらいました。父親が亡くなった後、妹たちは公正証書の遺言書に基づく相続分の取得を主張してきたことから、Mさんはびっくりしてしまい、遺産相続問題で大きくもめて、きょうだいがバラバラになってしまいました。

父親が元気な間に、子らが不平等感を抱かないよう相続財産に関してある程度の道筋をつけておくと、大きな紛争を招かないで済んだかもしれません。子らが「争族」にならないよう、生前に相続財産をどうするのか、節目々々に親族内で話し合いをしながらその方向性を伝えたり、子らの影響を受けない状況で、自らの判断により遺言書を作成しておいたりする方が望ましかったと考えられます。
遺言書は相続を円滑に進める大切な手段ですが、ご本人の判断能力が衰えた段階で作成された場合、相続開始後に遺言の有効性を巡って深刻な争いが生ずることもあります。そのようなことにならないよう早めの対応が必要です。

前妻の子との間で相続争いに巻き込まれたNさん(50代前半女性)

Nさんの夫(60代前半男性)は、Nさんと不倫の末、前妻と離婚しました。その後、Nさんは夫と婚姻し、二人で新居を構えて生活してきました。

ところが、Nさんの夫は脳梗塞によって急死してしまいました。Nさんの夫と前妻との間には二人の子がおり、Nさんの夫が亡くなって相続問題が生じましたが、過去の因縁から遺産分割協議がまとまらず、Nさんは困り果ててしまいました。

離婚等の経緯から将来的に相続でのもめ事が想定される場合、Nさんの夫は遺言書を作成しておく必要がありましたが、それをしないまま亡くなってしまいました。Nさんの行く末を考えると、配偶者居住権等法律に基づいた対処ができることから、法律の専門家等に相談することによって事前に法的な課題を解決しておくべきであったと言えるでしょう。再婚夫婦が増加しており、このような問題を抱えている方はたくさんおられることと思われます。もしもの時に備えて早めに相続対策を検討しておく必要があります。

兄の介護をしてきたOさんの貢献は?(60代後半女性)

妻に先立たれ、一人暮らしをしていた兄(70代前半男性)は、脳梗塞を患い、半身不随になってしまいました。長女は夫方の両親の世話をしており、長男家族は仕事の関係で遠方に住んでいたことから、近所に住むOさんが介護を引き受けながら、生活を維持していました。判断能力はある程度残っていたので、兄はOさんの献身的な介護に感謝して暮らしていましたが、数年後他界しました。

遺産は、長女と長男で相続することになりました。Oさんは別にそれを気にしていなかったのですが、介護の様子を快く思っていなかったOさんの夫が見かねて、Oさんに対して今までの生活上の不満をぶつけました。Oさんは、夫の感情を収めるためにやむを得ず、家庭裁判所に「特別寄与料」を求める調停を申し立てました。

特別寄与料とは、相続人ではない親族が被相続人の療養看護等に努めた場合に、被相続人が亡くなった後、相続人に対して遺産の一部を請求できる権利のことです。兄が生前、判断能力がある程度残っていたことから、法律の専門家に相談してOさんに対して一定の財産を相続させる旨の遺言書を作成しておけば、このような事態を避けることができたのかもしれません。兄がOさんに対する感謝の気持ちを表さなかったために、親族内でもめる結果を招いてしまったのです。

放蕩息子だった兄に翻弄されるPさん(50代後半女性)

Pさんには、中学時代から非行に走った兄がいました。入学した高校も中退してしまい、職を転々とするものの長くは続かず、遊ぶお金に困っては母に金銭を無心していました。母は蓄えが乏しくなってきたことから、いよいよ兄に対し、家を出て行くように言い渡しました。母の姿を見てきたPさんは、じっと我慢して、弱っていく母を献身的に介護しました。

母が亡くなり、相続が開始しました。法律の専門家である司法書士が遺産相続の手続を進める中で所在不明だった兄が見つかり、母が死亡した事実を伝えると、兄は自宅について相続分を主張しました。Pさんは兄が母に数多くの苦労を掛けてきたことなどを主張しましたが、兄はそれを聞き入れようとせず、二人の争いはひどくなるばかりでした。

このような場合、兄が相続人として欠格事由があるのでは、と考える方もおられると思いますが、法的には欠格事由に当たりません。母が生前であれば、家庭裁判所において「推定相続人廃除」という手続をすることも考えられますが、Pさんの兄を推定相続人として廃除できるかどうかは微妙です。Pさんを守るためには、母が長女に遺産を相続させる旨の遺言書か、今までの経緯や事実をできるだけ具体的に記録に残しておく必要があったように思われます。

悪質業者に翻弄されたQさん(80代前半男性)

妻に先立たれたQさんは、自宅で一人暮らしをしていました。身寄りがなかったものの、自宅家屋やそれなりの資産があったことから、悠々自適の毎日を送っていました。ある日、Qさんの自宅を訪ねてきた修理業者の話を聞き、自宅を見てもらったところ、屋根瓦の損傷が判明したことから、その工事を施しました。それを契機として、修理業者が次々と訪ねて来てはQさんの不安を煽り、自宅の修理を促されるようになりました。

言われるがままに契約を重ねていったQさんは、資産がどんどん目減りしていくものの、判断能力の衰えもあって、対処できなくなっていました。自宅を定期的に訪問していた民生委員が異変に気づき、注意を促したものの、不安を募らせているQさんは修理業者を信頼して耳を貸そうとしません。地域包括支援センターが市とも相談しながら介入しましたが、解決に至らず、市長が家庭裁判所に対して「保佐開始の審判」を申し立てることにより、法律の専門家である保佐人が選ばれて事態の収拾が図られました。

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自営業により、多額の借金を抱えていたRさん(70代前半)

町工場を営んでいたRさんは、親族が営んでいる同業者3人に数百万円ずつの借金をしていました。しかし、Rさんは恩義を強く感じており、何とか返済したいと考えていました。

Rさんは日頃世話になっていた税理士に相談した結果、その返済の合計金額と300万円を上乗せすることが可能な金額の生命保険に加入し、長男を死亡受取人に指定しました。長男は、Rさんから、生前、自らが親族から受けた様々な恩義について聞かされていたものの、改めて残された日記に記載されている具体的な内容を見て感銘を受け、生命保険金を受領した後、同業者3人にそれらを返済しました。

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最初は友人や知人など少人数で一般的な話をセミナーのような形で進めることも可能です。

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